
検索やスマホアシスタントもAIで進化
このほかには、検索AIの進化も2024年の大きな話題だろう。検索に特化したサービスとしてGensparkやFeloが登場。ChatGPTがリリースした「ChatGPT Search」と併せて検索に利用するAIサービスの選択肢が一気に広がった。 年末に英語版がリリースされたグーグルの「Deep Research」は、これらとは少し異なる位置づけのツールとなる。調べたいトピックについて質問すると、レポートの構成案が提案され、それを承認すると多数のWebページを参照した詳細なレポートが出力される。 出力に時間がかかるため、簡単な調べもので使うには適さないが、1つのテーマについてできるだけ多くの情報を集めたい場合には重宝する。 従来のGoogle検索の代替としての簡単なリサーチにはPerplexityやChatGPT Searchを使い、詳細な調べものが必要になったときはDeep Researchを使うといった形で、今後はAI検索ツールも目的に応じた使い分けが行われるようになっていきそうだ。 日常生活に密着したもう1つの話題として、スマホのアシスタントに生成AIサービスが統合されたことにも触れておきたい。 Androidスマホでは、2024年秋から従来のGoogleアシスタントに代わってGeminiを標準アシスタントとして利用できるようになった。テキストチャット・音声会話共に利用可能で、従来のアシスタントでは回答できなかった質問にも答えられる。 そしてアップルも、SiriとChatGPTの統合を2024年6月のWWDCで発表。英語では12月から利用可能になっている。こちらは応答のすべてがGeminiに置き換わるAndroidとは異なり、質問によってSiriとChatGPTが使い分けられる仕組みだ。 Siriが回答できる質問は従来と同じくSiriによる回答が行われ、ChatGPTを利用するのが適切と判断された複雑な質問などは、ChatGPTを利用するかどうかの確認を挟んだうえでChatGPTによる回答が出力される。やや面倒な印象もあるが、プライバシー保護を重視するアップルならではの仕様といえる。 なお、この機能が日本で利用できるのは2025年内とされている。日本のiPhoneユーザーがその真価を問えるのはもう少し先になりそうだ。
2025年、ビジネスでAIを使いこなすために
2024年は、生成AIがビジネスで本格的に利用されるための土壌づくりが行われた1年だった。「生成AI元年」の2023年は、利用できるツールの種類が限られていたり、性能面で不十分さが目立ったりするなかで「頑張って使っている」面もあったが、この1年間でビジネスで利用できるツールが一気に揃い、環境面のハードルは解消された。 そして2025年は、AI活用のハードルをさらに下げるものとして、自律的に動いてタスクをこなす「AIエージェント」が台頭してきそうだ。 たとえば、マイクロソフトが10月に発表した「Copilot Actions」は、毎日の業務終了時に重要なタスクの一覧を受け取ったり、顧客との会議前に最近のやりとりを要約したりといったことを自動化できるものだ。その都度指示を行うことなく適切なタイミングで実行でき、複数のアプリをまたいだ操作も設定できるので、AIを使った業務をより効率的に行えるようになるという。 また、グーグルも2024年12月にAIエージェントサービスの「Google Agentspace」を発表し、OpenAIは2025年にAIエージェントをリリースするといわれている。このほかにもセールスフォースやNECなどからも業務用のAIエージェントが発表されており、2025年の新たな潮流となることが予測できる。 ただし、AIが自律的にタスクをこなすようになっても、どの仕事をAIに任せるかの采配や、効率化されたことで生み出された人間の時間をどのように有効活用するかの判断は人間が行う必要がある。 今後は、プロンプトのテクニックを駆使してAIを「利用」するのではなく、AIとの「協業」を前提に、より広い視野でAIのあり方を評価する姿勢が求められるようになりそうだ。
執筆:ITジャーナリスト 酒井 麻里子
【OpenAI】高性能モデルの開発にも注力
OpenAIは、5月に実施したオンラインイベントでChatGPTの大型アップデートを発表。新モデルの4oがリリースされるとともに、デスクトップアプリの提供や無料プランの機能強化を発表した。 10月には、生成結果を別ウィンドウでAIと共同編集できる「Canvas」の試験提供を開始。Claudeが数か月先行して導入していた「Artifacts」に相当する機能で、ドキュメント作成やコーディングで利用する場合に重宝するものだ。 さらに同月末には、新しい検索機能「ChatGPT Search」が登場。Perplexityなどの検索特化型ツールと同様の使い方もできるようになった。 秋頃からは、「高度な音声モード」も順次提供を開始。従来の音声対話モードに比べて応答速度が大きく向上し、会話の割り込みなどもできるなど、人間同士の会話に近いやりとりが可能になった。 12月上旬から約2週間にわたって行われた発表イベント「12 Days of OpenAI」では、推論モデルを無制限で利用できる月額約3万円の最上位プランや、動画生成AI「Sora」のリリース、高度な音声モードの動画アクセスの開始など、大小さまざまな新機能やアップデートが続々と披露された。 イベントの最終日に発表された次世代の推論モデル「OpenAI o3」は、数学やコーディングの分野で非常に高い性能を誇り、AGI(汎用人工知能)開発のための評価指標「ARC-AGI」ベンチマークでも新記録を達成しているという。OpenAIは以前からAGI開発を長期目標として掲げているが、これら高性能な推論モデルの開発も、AGI時代を見据えたものといえよう。 ライトユーザーがサービスを利用しやすくなるような改善にも積極的だ。たとえば、5月のアップデートでは、当時の最上位モデルにあたるGPT 4oが無料ユーザーにも制限付きで提供されるようになった。 これは、「無料で試したけれど、出力結果が今ひとつだった」という初心者ユーザーの挫折体験の減少に大きく貢献しているはずだ。加えて、ログインしていない状態でも利用できるようになり、「アカウントを作るのさえ億劫」という層にまで生成AIの体験が届くようになっている。 ユーザーの裾野を広げて汎用性の高いサービスを提供すると同時に、AGIを視野に入れた高度なモデルの開発にも注力する。そんな“二本柱”のバランスよく成長させていくことが、同社のスタンスなのかもしれない。
【マイクロソフト】Copilotはますます業務の相棒に
ビジネスで生成AIを利用するユーザーにとっては、マイクロソフトのCopilotも身近な存在だろう。OfficeアプリケーションのサイドバーでCopilotを利用できる有料プランは、企業向けが2023年末に、個人向けが2024年が明けて間もなく提供された。 ハードウェアでは、Windows PCの新たなカテゴリーとして、「Copilot+ PC」が発表された。AIに特化したプロセッサーであるNPUが搭載され、一定の要件を満たしたPCが該当し、Copilot+ PC向けの新機能も一部提供が開始されている。 マイクロソフトの強みは、OfficeやWindows PCといったビジネスシーンで長く利用されているアプリケーションやハードウェアにAIを統合できる点にある。生成AI活用にさほど意欲的でない層でも、日頃使っている業務ツールに便利なAI機能が導入されたなら利用を検討するかもしれない。長年のリソースを生かしながら、AIと一緒に仕事をする環境づくりに貢献しているのがCopilotというわけだ。 そして10月には、Microsoft 365 Copilotを使ってさまざまな業務プロセスを支援する自律型エージェントも発表されている。今後はますます、AIを相棒として業務を進めることが当たり前となっていきそうだ。
【アンソロピック】高い日本語力でClaudeファンが急増
アンソロピックのClaudeが日本で大きな注目を浴びたのは、2024年3月のClaude 3のリリースがきっかけだった。その当時のChatGPTなどが出力する日本語は、「いかにもAI」という感じのクセがあったが、Claude 3は人間の文章に近いこなれた表現を実現。文章の作成補助に利用しているユーザーを中心に大きな支持を集めた。 6月にはカスタムチャットの「Projects」やプレビュー機能の「Artifacts」が利用可能になり、10月にはChatGPTやGeminiが先行して導入していたデータ分析機能も搭載。チームプランやエンタープライズプランの提供も始まり、業務で導入しやすい環境も整った。 モデルについても、6月にClaude 3.5 Sonnet、10月にはその軽量版であるClaude 3.5 Haikuをリリースするなど着々と進化していった。さらに開発者向けには、Claudeがコンピューターの画面を認識して自動で操作を行う機能も提供された。現時点では比較的シンプルな操作に限られるようだが、今後の進化に期待したい領域だ。 Claudeを提供するアンソロピックは、AIの安全性に重点を置いた企業方針をとっている。これは同社の大きな特徴だ。その方針ゆえかWebの情報を参照した回答が行えない仕様となっている点は少々不便ではあるが、「安全性」と「言語能力」というわかりやすい強みを備え、ChatGPTやClaudeとは少し異なる立ち位置で成長しているサービスだ。