出典:筆者napkin.aiで作成

KNNポール神田です。
2025年は、AIエージェント元年といってもよい年になりつつある。いや、『LLM(大規模言語学習モデル)』から『インファレンス(推論)』エージェント系との分岐の年になりつつあるのが2025年だ。
■トランプ大統領に2,000億ドル投資をリクエストされ、5,000億ドルで解答した『スターゲートプロジェクト(StargateProject)』

(写真:ロイター/アフロ)
ソフトバンクG、OpenAI、Oracleらの3社による約4年で5,000億ドル(75兆円)の『スターゲートプロジェクト(Stargate Project)1年あたり1,250億ドル(18.7兆円)』がトランプ大統領のもとで2025年1月22日に発表された。大統領就任の翌日という異例の優先度だ。
このプロジェクトには、アブダビ首長国の『MGX』が70億ドル(1兆500億円)の出資(5.6%)を決めた。MGXの資産は1兆5,000億ドル(225兆円)。
■ビジョンファンドの7.5倍の規模となる投資額
ソフトバンクGは、『ソフトバンクビジョンファンド(SVG)』の2016年の設立時には、サウジアラビアのムハンマド皇太子の『PIF』から資金を調達し10兆円ファンドとしてスタートを切った。今回はその7.5倍の75兆円規模の資金を投入する計画だ。
初期の主要テクノロジーパートナーには、Arm、Microsoft、NVIDIA、Oracle、OpenAIらによる。AIインフラはすでにOracleのテキサスのデータセンターで稼働中。OracleとMicrosoftは、クラウドではライバル関係にあるが、OpenAIの事業部門の49%のシェアフォルダでもあるMicrosoftが、OracleとOpenAIとNVIDEAというコンピューティングシステムの構築と運営の中では、MicrosoftのAzureも採用される座組みで手を組んだ。
トランプ大統領も不動産業界での浮き沈みを何度も経験しながら、独自の世界観のリアリティーショーで成り上がり、米国大統領を二期目を勤める。今回は一期目のサプライズ当選ではなく、準備万端でスタートした政権…だからこそ、一期目の失敗を繰り返さないどころか、さらなるスピードアップで就任から一ヶ月も絶たないうちに、リアリティーショーばりの世界中の耳目を集める中心的な存在となっていり、何かと物議を醸し出す…。
さらに、多額の寄付でトランプ当選をサポートしたイーロン・マスクも政府効率化省(DOGE:Department of Government Efficiency)の担当者として話題を欠かせない。この2人のタッグがどれだけの期間続くのかも筆者には疑問である。目立ちたがりで好き嫌いが激しいというバディだからだ。
アメリカの黄金時代のために、米国企業+ソフトバンクG(日本)という形の投資は当初、1,000億ドル規模だったが、2,000億ドルとトランプ大統領からリクエストされ、5,000億ドルと解答した結果となった。このあたりの、交渉事はトランプ大統領以上に、孫正義氏は巧みだ。
■ソフトバンクとOpenAIの50%づつの合弁会社『SB OpenAI JAPAN』30億ドル4,500億円を支出
2023年2月3日、東京で発表会がおこなれ、ソフトバンクとOpenAIの合弁会社である『SB OpenAI JAPAN』の設立が発表された。
■OpenAIおよびソフトバンクグループは本日、個々の企業の全てのシステム、データを安全に統合し、当該企業専用にカスタマイズされた企業用最先端AI「クリスタル・インテリジェンス(Cristal intelligence)」の開発・販売に関するパートナーシップを発表しました。 ■ソフトバンクグループ株式会社は、OpenAIのソリューションを全ソフトバンクグループ各社に展開するために年間30億米ドル(約4,500億円相当)を支払い、世界で初めてクリスタル・インテリジェンスを大規模に導入するとともに、ChatGPT Enterpriseなどの既存ツールも全グループの従業員に展開します。 ■SB OpenAI Japanは、OpenAIと、ソフトバンクグループ株式会社およびソフトバンク株式会社が設立する中間持株会社が、それぞれ50%ずつ出資して、ソフトバンク株式会社の連結子会社となる予定です。日本企業特有のニーズに対応したAIエージェントの導入を促進するとともに、グローバル規模でのモデルを構築します。 ■OpenAIは、SB OpenAI Japanに対して最先端のAI研究と技術、技術面でのサポートを提供します。ソフトバンク株式会社は、エンジニアと営業を担う社員を配置し、国内のネットワーク、保守運用および強固な法人顧客基盤を生かして、営業展開を行います。 https://group.softbank/news/press/20250203_0

出典:筆者napkin.aiで作成
『OpenAIとソフトバンクグループ、Arm、ソフトバンクによる法人向け特別イベント「AIによる法人ビジネスの変革」(2025年2月3日開催)』1時間56分フルバージョン
OpenAIに対して年間30億ドル、1ドル150円換算で年間4,500億円という規模の支援となる。
ソフトバンク関連の企業数を約2000社とすると、平均1社あたり年間2億2,500万円というコスト負担となる。月額1,875万円だ。大企業の固定費としての給与コストを一人あたり月額約150万円とすると、12人分くらいに値する。つまり、1社あたり、約12人分の働きを『クリスタル・インテリジェンス』ができれば損益分岐点となる皮算用が成り立つ。
一方、OpenAIにとってこのディールは、とても魅力的なディールとなるだろう。それは、赤字体質のOpenAIの財務環境を一変することができるビジネススキームだからだ。
孫氏は、「OpenAIは大変な設備投資で赤字だとか言われるけど、たった一社の契約で4,500億(円)入ります。10社で4.5兆(円)。世界にソフトバンクグループ規模の会社は100社あるので、各社がクリスタルを入れると、年間3B(30億)ドル、45兆円になる。十分な利益を生む。その1社目となるのがソフトバンクグループ」と語った。 https://news.yahoo.co.jp/articles/3403f3a0bae1c4e6c7ee529eb5c6fd872cfec2ac
■30億ドル×100社のクリスタル・インテリジェンス導入でOpenAI社の売上25年分

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■2024年、OpenAIへの出資額による企業価値は1,570億ドル(※23.5兆円)となった。 ※1ドル150円換算 一方、華麗なる資金調達とは裏腹に、2024年の売上は36億ドル(5,400億円)である。そして2025年は116億ドル(1兆7,400億円)の売上とさらに179億ドル(2.6兆円)の資金調達を予定している。年間の赤字額は50億ドル(7,500億円)と予測されている。 ■その要因は、Microsoft社からのNVIDEAのGPU A100を35万台を借りており、29万台をChatGPUの処理に向けている。1台1時間あたり1.3ドルのレンタル料だけでも年間40億ドル(6,000億円)となるからだ。 2024年、OpenAIの企業価値1,570億ドル,トヨタ39兆円に続くレベルの非上場 https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/45c26346e0a47c020a00d284ba8f90e1a5e7d064
しかし、これがソフトバンクグループ1社で年間30億ドル(4,500億円)を負担するだけで、2024年の売上36億ドルの83%に達することとなる。
10社クリスタルインテリジェンスの導入で300億ドル(4.5兆円)となり、2025年のOpebAIの売上目標である116億ドルを258%達成することとなる。
ソフトバンクグループ規模の会社は世界に100社いるということで、孫正義氏の皮算用で計算すると、30億ドル×100社のクリスタル・インテリジェンス導入で、3,000億ドル(45兆円)の売上となる。2025年の売上目標は116億ドルだから、なんと25.8年分の売上を上げることとなる。
100社の世界展開は、世界へのライセンスの問題をふくめて再現性が少ないとしても、日本国内10社の導入の300億ドル(4.5兆円)は、目標値としてはなかなか良いラインではないだろうか?
すると、OpenAIにとっては、2025年の資金調達目標179億ドルという枷もはずすことができる。
しかし、このスキームは、過去の『ヤフージャパン』の導入と似ている。本体へのマジョリティ出資が叶わない場合、日本という当時、世界第二位の市場での、合弁会社設立で独占的な地位を確保し、ライセンス料を本体へ還流させるというスキームだ。
ヤフージャパンは、1996年1月にソフトバンク株式会社と米国Yahoo! Inc.の合弁会社として設立。出資比率は
- ソフトバンク株式会社:60%
- Yahoo! Inc.:40%
であった。
4年後の2000年、ヤフーが上場し、株価は1株あたり1億6,790万円の値をつけた。株式分割を繰り返し、1株当たり6億6960万円の含み益を有していた。一時、孫正義氏はビル・ゲイツ氏を抜き世界一の金融資産の保有者となった。
その後、世界的にネットバブルがやってくる。
インターネット・バブル同様に、AIエージェントバブルの始まりが2025年始まっているような気がしてならない。ただ、あの頃との明確な違いは、インターネットへの過度の期待値ではなく、AIエージェントの場合、プロダクトやサービスが、実際にリリースされる度に、その成果が都度、確認できるところにきているところが大きな違いだ。
未来への期待がすべてではなく、いま、インストールすればそのまま効果が見えてくるところが大きな違いだ。ただ、上場とかになると別の力学が作用するので注意が必要だ。
いろんな意味で2025年は、生成AIの2022年誕生から3年。AGIの時代へ向けて、さらに進化が早くなることとなる。
OpenAIの資金面の心配がなくなれば、オープンソース化する中国勢の新興エージェントAIとの切磋琢磨は、さらなる人類のAI進化に寄与するのではないだろうか?